本紙で、2007年からことし3月まで11年4カ月にわたりコラムを担当していた元県教育長、小関洋治さん(76)が、連載を再編集した著書『紀州つづら折り』を和歌山新報社から出版した。和歌山の近代史がさまざまな分野にわたり詳しく知れる重厚な内容に、教育現場から活用を望む声もあり、郷土の誇りを喚起される書となりそうだ。「人生の集大成」とも表現する同書の刊行に至った小関さんの素顔や、現役の頃の活躍に迫った。
同書で小関さんは、県内の文化遺産や民俗・風習、近代における産業をはじめ、政治家、教育者、スポーツの名選手など、顕著な足跡を残した人物にも着目。人との出会いを演出する橋や駅もテーマに選ぶなど、何事にも憧憬(しょうけい)を抱くみずみずしい感覚で丹念な取材を続け、図書館にも足を運び、資料をひも解きながら詳細に記した。
自然豊かな和歌山を象徴する緑色の表紙に、白文字の表題と、岩出市の根来寺の写真が配置された美しい装丁には「紀州には、勾配が厳しく曲がった道も多いが、その先に息をのむような美しい景色や、粋な人との出会いがある」との思いが表れている。
根来寺については第一章「多彩で豊かな文化遺産」の中で解説。室町時代、高い学問水準や漆器の製造などで隆盛を極め、ヨーロッパにもその名が知れ渡っていたことや、国宝の大塔は67年がかりで建築されたこと、同時代の末期、豊臣秀吉により壊滅させられたことなど、読者が同寺の悲劇的な歴史を理解しやすいよう、分かりやすく記している。
小関さんは山形県鶴岡市出身。東京教育大学(現筑波大学)を卒業後、県立桐蔭高等学校に社会科の教諭として赴任した。赴任当初の1カ月半、宿直室で生活を送っており、年齢差がわずか5歳の生徒らと「教室での関わりだけでなく、人間対人間として付き合った」。
担当した日本史の授業については「勉強は人生を豊かにするためのもので、受験対策はしない」と公言。5、6人のグループごとにテーマを決め、図書室でさまざまな資料にあたって論文をまとめ発表するという“大学ゼミのような”形態で授業をした。
生徒から、友人関係や将来について気楽に語り合える兄的な存在として慕われ、55年の長きにわたって親交のある山路正雅さん(71)は「背が高くて格好が良く、女子生徒にも人気がありましたね」と当時を懐かしむ。
桐蔭高で7年、県立海南高校で7年にわたり教壇に立つ中で、大切にしていたのは「教師自身も勉強し、その姿勢を生徒に見せること」。36歳で県教育委員会で勤務するようになった小関さんは、学校図書館に勤務する司書の研修制度や蔵書の充実に力を注いだ。
また、同じ東北地方出身の先輩教諭で、知的障害のある子どもを育てている人を通じて保護者の困り事を知り、さらに多くの家庭の聞き取り調査に奔走。障害のある子どもを支援する学校を増やそうと、県内で新たに3カ所の養護学校を創設した。56歳からは8年間にわたり県教育委員会の教育長を務めた。
「共感することに高い価値を感じる」
と小関さん。同書を通じて「歴史や文化は風景と一体にある。その環境で暮らした人の喜びや悲しみは長い間ずっと変わらずあり、そこに共感を覚える人が増えたらうれしい」とほほ笑む。
山路さんも「和歌山を知る一級の資料。学校の先生方にも読んでもらい、子どもたちに和歌山の素晴らしさを伝えてほしい」と熱を込めている。
同書は1800円(税別)で、宇治書店(和歌山市雑賀屋町)や県立博物館(同市吹上)内ミュージアムショップで販売している。6月中旬から市内の主要書店で販売予定。
著書を手に小関さん