本紙連載コラム「伸ばす子どもの書く力」(土曜日付、隔週)でおなじみの和歌山県岩出市の詩人、武西良和さん(71)が、日本国際詩人協会(JUNPA)賞2019の優秀賞を受賞した。日常生活や農作業で心を打たれたことをもとに独自の詩の世界を紡ぎ出し、元小学校教員として児童への国語の指導にも取り組んできた武西さん。受賞の喜びや創作の舞台裏を聞いた。
3月3日、京都市内で開かれたJUNPA設立7周年記念国際詩祭で受賞セレモニーがあった。
同協会は、紛争や難民問題などで揺れ動く国際社会の人間性の回復を目指す詩人の団体。武西さんはロシアの詩人、ヴェチェスラウ・クプリヤノフさんと詩集『鉄の二重奏』を共作し、今回の詩祭で作品を朗読。クプリヤノフさんによる朗読も行われた。
クプリヤノフさんは、オセアニア、アフリカなどの四大陸の苦難に満ちた歴史を表現した「オデュッセィアの歌」、武西さんは、夜通し休みなく働く工場のポンプを生き物の内臓に見立てた「染色工場の心臓」などを朗読し、東西の詩人が響き合う対話の世界が展開された。
クプリヤノフさんの朗読に「地の底から言葉が湧いてくるようだ」と感じたという武西さん。自身も、一週間の半分は紀美野町で取り組んでいる農作業から、力強い詩の世界が生まれてくることを思い、共感を抱いた。
武西さんの創作は、日々の暮らしや旅先などで、心を打たれたことを手帳にメモをすることから始まるという。年間に2、3冊のペースで詩作のヒント集は増えていくが、インド旅行に出掛けた時は約1週間で3冊にもなり、「詩のエリアが広がっていくことが面白いですね」とほほ笑む。
また、8年ほど前から万葉集を読み込むようになり、心に刺激を与えてくれるものとして楽しんでいる。収められている歌を味わっていると、「時を超え、万葉人がすぐそばにいるようだ」。
万葉集の古代人だけでなく、接するものや動物、自然に自身を投影するような作品が、武西さんには多い。3月には、NPO法人日本詩歌句協会主催の第13回中部大会詩の部で中日新聞社賞に輝き、受賞作「骨の誘惑」でも、父の葬儀で遺骨を拾う箸の目線を交え、故人を悼む心情を描いた。
詩の創作は「ドキドキワクワクする」。武西さんは創作の楽しみを伝えようと、国語の教師として、児童にさまざまな課題で作文を指導してきた中で、「作文が好きになった」という感想が最もうれしかった。
武西さんは、実年齢より10歳若い骨密度の診断を受けられたのも農作業のおかげと笑顔を見せる。詩人と同時に「農夫」を名乗り、健康な体と詩想を育みながら、詩作との両輪の生活はこれからも続く。
愛読する万葉集を手に武西さん