肢体が不自由な和歌山県和歌山市今福の髙田友紀子さん(23)が、児童文学作家「たかだ ゆき子」としてデビューを果たした。自身の感動体験や、日々の思いを込めた『はじめての うみ』『やさしい きもち』の2冊を同時出版。髙田さんは「障害者と健常者の壁をなくしたい。日常や社会でつらいこともたくさんあるけれど、障害を理解して、守ってくれる人はいる、そんなメッセージが皆さんに伝われば」と話している。
髙田さんは双子として生を受けた。生まれた時から手足が不自由で、日常生活は車いすを利用。現在は県立医科大学のリハビリテーション科で、作業療法士のアシスタントとして働いている。
幼い頃から、母親の読み聞かせで絵本に親しんできた。一ページずつ、家族みんなで感じたことを発表し合うのが一家のスタイル。絵本作家を夢見るようになったのは、ごく自然なことだったという。
絵本を深く知ろうと、読み聞かせのグループに入会。その後、福祉施設などから声が掛かるようになり、個人で「ゆっこりんのおはなし会」を立ち上げ、各地で読み聞かせを披露している。
絵本制作のきっかけになったのは、昨年夏、磯の浦のビーチイベントで、水陸両用車で双子の兄の英樹さんと共に人生初の海水浴を楽しんだこと。
『はじめての うみ』は、その思い出深い体験を基に生まれた絵本で、海に憧れるウサギが、優しいクマたちのサポートで「まほうのいす」に乗って海を楽しむ物語。
海から眺める景色は新鮮だったといい、波に揺られ、潮風を感じながら全身で夏の海を満喫。「頑張って生きていて良かった」。浜辺で感想を聞かれた髙田さんの口から自然とこぼれたのは、そんな言葉だった。
「つらい思いをすることもあるけれど、前向きに生きていれば、楽しいことがたくさんあることを伝えたい」と、一気にストーリーを書き上げた。
『やさしい きもち』は、木登りができないウサギに対し、サルたちが木に登っていじわるをする。そんな中、かばってくれるクマも現れ、自分たちのことしか考えないサルたちの一方、仲間外れにされてもなお、サルたちを思いやるウサギの姿が描かれている。
これまで、障害のために理不尽なことや心ない言葉に傷つけられることも多かったが、自分を理解し、支えになってくれた、ある恩師との出会いも大きかったという。
絵本のイラストを担当したのは、姉の鮫島裕美子さん(25)。温かみのある素朴なタッチで、動物たちを生き生きと描き「表情一つにも、相談しながらいろんなメッセージを込めました」と話す。
楽しいことも、つらいことも家族で分かち合い、髙田さんは「私自身、愛情いっぱいに育ててもらいました」とにっこり。自分もそうであったように、「絵本を通じて、小さい頃から思いやりや優しさを育んでおくことが大切」と話す。そして「絵本に登場する、うさぎちゃんやくまさんのような、優しい人が増えれば」と願っている。
『はじめての うみ』は1300円(税抜き)。『やさしい きもち』は1500円(同)。宮脇書店ロイネット和歌山店、帯伊書店、宇治書店、アラオ岩出店・打田店などで取り扱っている。
19日午後3時からは、宮脇書店和歌山店(和歌山市広瀬中ノ丁)で、出版を記念した「おはなし会」とサイン会を開催。6月15日午後3時から、TSUTAYA WAYガーデンパーク和歌山店(同市松江)でもイベントを開く。
2冊の絵本を手に笑顔の髙田さん