岩出市の根来塗師、池ノ上曙山さん(55)は、大病から復帰したことをきっかけに、約1年間をかけて制作した「黒根来瓶子」を公立那賀病院(紀の川市打田)に寄贈した。池ノ上さんは「病と闘う患者さんに勇気と希望を持ってもらいたい」と話している。
池ノ上さんは平成21年、脳出血で倒れ、同病院などに入院した。発病当初は意識が混濁し、以後1カ月間は足がまひし、言葉も思うように話せない状態が続いた。懸命のリハビリにより約半年後に退院。「患者の励みになれば」という思いから、退院後、同病院への寄贈品として今回の制作に取り組んできた。
寄贈した作品は、根来塗の代表作である酒を入れるための漆器(とっくり)。高さ33・6㌢、直径23・8㌢で、中心部から下部にかけて、そりが入っている。入院以前の池ノ上さんの作品は、繊細で美しく完璧だと評価されていたが、退院後は、思いが作品を通して伝わるような漆器に変化。これまであまり制作しなかった黒根来を手掛け、はけの後が残った状態に仕上げた。
作品は9月27日に寄贈され、病院の1階エントランスホールに常設されることになった。
中村愼司紀の川市長や中芝正幸岩出市長も観覧に訪れ、中芝市長は「作品が寄贈されたことで、病院に落ち着きや安らぎが出てくる。これからも頑張ってもらいたい」と話していた。