東日本大震災を契機に、自然災害から歴史資料などの文化財を守る取り組みが注目される中、保全の在り方を考える研究会が和歌山市の県立博物館で開かれた。同震災で被害を受けた宮城県の研究者らが、被災文化財救済の取り組みや課題を報告し、「被災地で求められるのは応用力。普段からいかにイメージして備えられるかが重要」と話した。
研究会の開催は15日。被災地の情報を共有し災害時に生かそうと、地域ボランティア団体「歴史資料保全ネット・わかやま」(藤本清二郎代表)が主催し、25人が参加した。
発表したのは、震災当時、宮城県で県職員として文化財救済に関わった東北歴史博物館の小谷竜介学芸員、元県立紀伊風土記の丘学芸員で東北学院大学の加藤幸治准教授、同大学の政岡伸洋教授の3人。
小谷学芸員は、文化財の救援は一時保管場所の確保が大変だったこと、救済後は連絡会議を立ち上げ、行政と博物館のネットワークづくりなど、長い道のりであったことを紹介。
全壊12万棟という被害の中、個人所有資料の扱いが課題に上がり「県指定の文化財は県が責任を持って守るが、声を上げられない未指定のものをどうやって守っていくか、保全ネットの役割が欠かせない」と話した。
その他の2人も、文化財レスキューをプロの仕事にせず、学生や地域の人が関わること、被災した民俗資料はプロジェクトとして調査し、企業や福祉関係者、ボランティアらを巻き込み、文化財保護のみを目的としない、ネットワークで結ばれた活動とすることが重要だと指摘。普段から史料の記録化、民俗誌の作成などが重要だとアドバイスした。
県内の取り組みとして県や県立博物館、文書館や和歌山大学の職員や学芸員の報告もあった。県立博物館の前田正明主任学芸員(51)は「体験された方の声は大変参考になった。みんなで考えるという雰囲気で、地域と関わりながら共通理解を持てるような関係づくりを、災害に備えて実践していければ」と話していた。