和歌山下津港海岸(海南地区)で建設が計画されていた直立浮上式津波防波堤について国土交通省近畿地方整備局は18日、浮上式防波堤を取りやめ、護岸かさ上げによる津波対策に切り替える整備計画案を発表した。浮上式防波堤は東海・東南海・南海3連動地震を想定して設計されたが、平成24年に内閣府が公表した南海トラフ巨大地震の被害想定では機能しなくなる恐れが指摘されていた。
巨大地震の想定公表を受けて技術検討委員会で検討したところ、海南市で震度6弱が想定される3連動地震に対し、震度7が想定される巨大地震では浮上式防波堤の鋼管が地中で曲がり、浮上しなくなる恐れがあることが分かった。
巨大地震でも機能する浮上式防波堤を建設するためには、地盤改良などの追加対策が必要になり、総事業費が約770億円(現計画250億円)に膨れ上がり、完成時期も平成43年度(同31年度)と大幅に遅れることが判明。事業計画そのものの見直しを検討してきた。
新たな護岸かさ上げによる津波対策では、現在までにかさ上げが完成している護岸に加え、5㌔以上の護岸を改良・新設。総事業費を約450億円に抑えながら、完成時期も35年度に早めることができるという。
3連動地震ではほぼ陸上に浸水せず、巨大地震でもほとんど水深1㍍以内の浸水で抑えることができ、人命を守る観点から現計画より確実に減災効果を発揮できるとしている。
同日、和歌山港湾事務所で会見した同局の北出徹也港湾空港企画官は、「住民の方には期待を持たせた分、裏切るかたちになり申し訳ないが、巨大地震で機能しない施設は整備できない。よりベストな選択へ苦渋の決断をした」と話した。
浮上式防波堤は、78本の鋼管を海中に埋め、災害時に海上に浮上させて津波から街を守る計画。総事業費のうち約87億円(護岸かさ上げ含む)をかけて昨年1月までに3本の鋼管を設置し、実証実験を行っていた。3本は常に海上に上げておくかたちで、無駄にしないように活用するという。
仁坂吉伸知事は「和歌山県の津波対策の根本は『命を助ける』ということ。リスクのある浮上式よりリスクのない堤防型に切り替えたということで、われわれとしてはそれでいいと思っている」とコメントした。