「湊御殿」 (和歌山市西浜、 市指定文化財) の板戸絵について、 紀伊狩野14代狩野紘信さんが指摘するのは、 明治か大正時代になされた、 狩野派ではない人物の下手な手による補修だ。
狩野さんは 「唐賢人図の老子と童子、 樹木の表現には〈天保〉時の筆表が生かされていますが、 季節は秋です。 松葉緑が鮮やか過ぎるし、 水の流れや水鳥の描き方に問題がある。 また、 梅花の色としべの表現、 鳥や苔(こけ)にも問題がある。 見苦しく、 絵の品格を落とした。 何とかしなければなりません」 と話し、 先日、 市に意見書を提出した。
それに対し市文化振興課は 「傾聴に値するご指摘」 としながらも、 修復は行わない方針。
富松真矢子課長 (55) は 「板戸絵は長い歳月の間幾多の修理が施され、 狩野先生が狩野派の絵として恥ずかしいものであるというお気持ちは当然のことと考えます。 しかし、 文化財にはそのもの自体がくぐり抜けてきた歴史を伝えるという役割があり、 現状維持修復が原則です。 板戸絵は、 天保5年に再興された湊御殿という文化財を構成する重要なパーツの一つであり、 歴史を物語る大切な資料であることをご理解いただきたい」。
絵画専門の学芸員で、 同課事務主査の近藤壮さん(42)は 「修復の仕方、 描き方がよろしくないという狩野先生の指摘は理解できます。 ただ、 明らかに絵を傷めているなどのことがない限り直すことはできません。 絵具の剥落が起こる危険がある場合には剥落止めなどを行いますが、 そういう事実は確認していません」 と返答する。
同御殿は平成18年11月から一般公開され、 24年度は、 養翠園や和歌山城天守閣入場から1週間以内なら無料になったため、 入場者は前年度より10倍以上増えて1万1614人となった。
仁木さんは 「せっかく皆さんに見てもらえるようになった絵です。 狩野先生に修復していただき、 最初の美しい姿を取り戻せたらうれしいのですが」。
狩野さんは 「板戸絵と湊御殿の、 生産性も加味した活用を考えていただけたら」 と話している。
(終わり)