満州国で育ち、壮絶な第2次世界大戦を命からがらに生き抜いた、和歌山市杭ノ瀬の故・深川千鶴子さん(77)。ことし9月に肺がんで逝去する前に、自身の戦争体験を踏まえてこれまでの人生を書き下ろした書籍『ちーちゃん~手記「満州引き揚げ体験を生き抜いて」』を自費出版した。書籍では特に満州国から日本に帰国するまでの過酷な道のりが記されている。
終戦し、満州引き揚げの際、千鶴子さんの父・浜井利尊さんは新京(現在の長春)でソビエト兵に殺害され、母・篤子さんは中国人男性に引き取られ生き別れになるなど、家族はバラバラに引き裂かれた。
また日本に戻ってからも他人の家を転々と回り過ごした生活や、国籍の取得に奔走する日々などが記され、波瀾(はらん)万丈な人生がうかがえる。
出版のきっかけは、千鶴子さんの息子で、同市黒田で中国料理店「ニイハオ」を経営する耕司さん(53)との会話。昨年春ごろ、「お母さんも来年、喜寿やな」と話題になり、喜寿を機に千鶴子さんの歴史を形にしようと出版を決めた。
出版は大阪のルポライター、高橋繁行さんの協力を得て、何度も千鶴子さんとヒアリングを繰り返して制作。ことし7月に完成した書籍が千鶴子さんの手に届いた。耕司さんによると、千鶴子さんは冊子を見つめて笑顔で喜んでいたという。
耕司さんは「この本で一家の歴史がずっと残っていくようで、ほっとしている」と感慨。「戦争は人の人生を狂わせる。たくさんの人に満州を生き抜いた女性がいたということを知ってほしい」と話している。
過酷な人生だったが、結婚し、3人の息子に恵まれ、多くの人に支えられた感謝の思いもつづっている。「いろんな人に支えられてがむしゃらに生きてきました。つらかったことも山ほどありますが、私は今、幸せです。そう言いきれると思うんです」と最後の文に思いが込められた。
今後、増刷し販売する予定。書籍はニイハオで読むことができる。問い合わせはニイハオ(℡073・473・7510)まで。