前号から「和歌浦」や「藤代峠」など和歌山の景観が映し出された庭園「六義園(りくぎえん)」を紹介している。
万葉集や古今和歌集の時代を映し、今では想像のつかない景観が見られるスポットが「吹上浜(ふきあげのはま)」だ。和歌山市の吹上にちなんで造られ、古今和歌集にも詠まれた「秋風にふきあげにたてる白菊は花かあらぬか波のよするか」(秋風の吹く、吹上の浜に立っている白菊は、花なのか、それとも波が寄せているのか、見間違えるほどだ)にあるよう、かつて、和歌山城がある虎伏山の南に連なり、白菊の花が咲き乱れていたという砂丘(吹上浜)を表現している。
砂丘の傍では松林が広がっていたことから、同園では「吹上松(ふきあげのまつ)」として再現。案内板では、根本の幹が宙に浮いた形が珍しい「根上り松」について紹介され、今も和歌山大学付属中学校の校庭に残る「岡山(奥山)の根上り松」が、砂丘という吹上独特の地形に由来することがよく分かる。
今や吹上は住宅地となりその面影はほとんどない。しかし、先日創立140周年を迎えた吹上小学校の校歌「松風清き吹上の浜に栄えし昔より名もかぐわしく伝われる白菊の花ゆかしやな」という詩として今なお地域の子どもたちに歌い継がれ、「根上り松」と「吹上の白菊」が付属小学校の校章の由縁であることも確か。都心のど真ん中にある六義園もまた、和歌山の和歌の世界を人々に伝え続けている。
故郷の歴史的な魅力に触れられる。とくに修学旅行の生徒たちに訪れてもらいたい。山手線・東京メトロ南北線「駒込駅」下車徒歩約10分。
(次田尚弘/東京)