大阪市の写真家・川岸じろうさん(78)の作品展「敗戦の記憶」が10日まで、和歌山市十一番丁のギャラリーTENで開かれている。並ぶのは広島や長崎、沖縄などの激戦地で撮影された建造物や遺物などの戦争遺産。その一枚一枚が、歴史の証人として戦争の悲惨さや平和の尊さを語り掛けている。川岸さんは「戦争遺産は敗戦の無言の証明。写真から記憶を呼び戻し、あらためて戦争をしてはいけないと胸にとどめてもらいたい」と話している。
川岸さんは全日本写真連盟大阪府本部委員、JPA日本写真作家協会会員などを務める。今回の展示は、3年前に大阪市北区のニコンサロンbis大阪で開いた同タイトルの写真展の中から38点を展示している。
昭和20年8月15日、当時8歳だった川岸さんは母親と2人、ラジオの前で玉音放送を聞いた。「母親は涙を流しながら、一言『これでお父さんが帰ってくる』と言いました」
中国に出征していた父は戦後しばらくして帰国。そんな父親の三十三回忌を機に、戦争を風化させまいと、10年前から全国各地の「戦争遺産」を巡り、カメラに収めている。
作品は、愛知県知多半島にある、戦死した軍人一人ひとりをかたどった石像群、日本陸軍の毒ガス製造工場があった広島県竹原市の大久野島、山口県大津島の回天(人間魚雷)など。特攻兵が残した遺書を写したものや、友ヶ島砲台跡も並ぶ。
沖縄戦の陸軍病院として使われ、ひめゆり学徒が動員された洞窟の写真の隣には、学徒動員を詠んだ歌「切り落とせし兵の脚をば埋めにゆく女子学生ら唇噛み駆ける」に焦点を当てた作品が紹介されている。
川岸さんは「もしこの時代に自分がいたら、どんな風に考えるか、思いを巡らせてもらえたら」と話している。
午前11時から午後6時(最終日は3時)まで。8月4日は休み。問い合わせは同ギャラリー(℡073・422・6311)。