県畜産試験場(すさみ町)などは、高齢により子牛が産めなくなった雌牛から良質な卵子を採取する技術を開発し、体外受精により子牛を誕生させることに成功した。成長や肉質が優れていると分かっていても高齢のため淘汰(とうた)せざるを得ない牛から子牛の生産が可能となり、県内畜産業の振興が期待される。
県によると、同試験場は、平成24年度から近畿大学生物理工学部(紀の川市)との共同研究で、体外受精技術を用いた効率的な子牛生産システムの開発を進めており、今回の成果につながった。
方法は、高齢牛に卵胞刺激ホルモンなどを注射することで卵子の品質を改良。高品質な卵子を採取し、さらに新技術の「マイクロウェル培養」を行うことで、体外受精後の発育を良くした。
出産に成功したのは、成長・肉質の遺伝子能力が県内トップクラスの黒毛和種「ひでみ4号」(採卵時13歳)。昨年11月に卵子を採取し、12月に別の牛に体外受精卵を移植。ことし9月10日に体重44㌔のオス(黒潮太郎)、18日に30㌔のメス(くろしおひめ)が誕生した。
県研究推進室によると、牛の寿命は約20年で、2歳から毎年1頭ずつ出産できる。発情時に人工授精させ、10歳ごろまでに約9頭を産んだ後、徐々に受胎しにくくなる。
今回開発した技術を使うことにより、これまでなら役目を終えていた高齢牛から、年に複数頭の子牛の生産が可能になった。
県は「県産ブランド和牛『熊野牛』は数の少なさが課題だった。品質の良い和牛の増頭に向けて、新技術を現場に普及させていきたい」と話している。