前号に続き、紀南の魅力的な川の歴史と文化について取り上げる。今週は古座川町の「明神の潜水橋(みょうじんのせんすいきょう)」を紹介したい。
「明神の潜水橋」は古座川町役場から北西へ約6㌔、明神郵便局の前にある。古座川の中流に架かり、明神地区と潤野(うるの)地区を結ぶ、全長約90㍍、幅約1・5㍍の橋。欄干がないのが特徴で、増水時には水面より下に潜ることから一般的に「潜水橋」と呼ばれている。
欄干がないのは、増水時に流木や土砂の影響で橋が流されたり、川の水がせき止められ洪水が起きるのを防ぐため。平常時はいささか危険とも思われるが、これも先人の知恵だ。
「明神の潜水橋」をよく見ると、川の上流に面した縁石部分のみ鉄が巻かれている。これは上流から来る流木が衝突し橋が壊れないよう保護する役割がある。このような対策が施されていても、平成18年6月の大雨で一部の橋脚が流される被害があった。地元の方々からの強い要望で21年3月に復旧している。
紀南地方には富田川にも潜水橋が存在する。これもまた23年9月の台風12号の豪雨で2つの潜水橋が流されたが25年4月に復旧。潜水橋は、地元の方々の生活になくてはならないものとして、地域で愛される存在だ。
近年は潜水橋の歴史や文化を再認識する動きがあり、高知県では流域の生活を支えてきた貴重な生活文化遺産として保存する方針が出されている。この夏、今もなお地域で親しまれ続ける川や橋の歴史や文化にふれてみてはどうだろう。ただし、増水時は川に近づかないようご注意を。
(次田尚弘/和歌山)