今週も吉野熊野国立公園の魅力に触れたい。同公園は、熊野灘に面する海岸部、吉野山や大峰山脈、大台ケ原や大杉峡谷を中心とする山岳地域に加え、瀞峡および熊野本宮大社、川湯温泉に代表される熊野川沿いの渓谷地域も含まれる。
熊野川は奈良県南部の大峯山脈を源流とし、紀伊半島中央部を南下。大台ケ原を水源とする支流の北山川と合流し熊野灘に注ぐ一級河川。流域面積は近畿地方で3番目に広い2360平方㌔㍍で、河川の総延長は183㌔㍍と近畿で一番の長さ。この時期、北山川では観光筏下りやラフティングが楽しめ、瀞峡を巡るウォータージェット船も気持ちがいい。
また、熊野川は熊野本宮大社と河口に近い熊野速玉大社を舟で結ぶ主要な参詣道でもある。熊野本宮大社の参詣者の多くが、熊野川を舟で下り熊野速玉大社に参詣したという。そのため、この区間の熊野川は世界で唯一の「川の参詣道」として世界遺産に登録されている。
風光明媚な熊野川であるが、平成23年の紀伊半島大水害の際は甚大な被害を受けたことはご承知の通り。普段の穏やかで広大な熊野川の姿からは想像もつかないが、瀞峡を巡るウォータージェット船乗り場をはじめ、川沿いの施設は大きな被害を受けた。今もなお、所々に爪跡が残る箇所もあるが、懸命な復興により、水害前と変わらない程の姿に戻っているところがほとんどだ。
7日に世界遺産登録から10年を迎えた「紀伊山地の霊場と参詣道」。山の中を続く参詣道が注目されがちだが、先人が使った「川の参詣道」も趣き深い場所。この夏、歴史ある雄大な熊野川を訪れてみてはどうだろう。 (次田尚弘/和歌山)