前号では紀伊田辺城と関係があった掛川城と城下町を紹介した。城下町の武家屋敷といえば「連子窓」や「なまこ壁」が採用され、例えば和歌山市吹上に現存する長屋門からは、かつての城下町の街並みを連想できる。しかし、災害や戦災、経年劣化を免れ現存する歴史的価値のある建造物は希少となってきた。
「なまこ壁」を地域資源と捉え、保全・修復を行い技術の継承と観光資源化に取り組む町がある。静岡県賀茂郡松崎町。三島市から南へ約70㌔、伊豆半島南西部の沿岸に位置し人口約7000人。テレビドラマ「世界の中心で、愛をさけぶ」のロケ地にもなったのどかな町だ。
街の中心部、なまこ壁の建造物が立ち並ぶエリアは「なまこ壁通り」と呼ばれ、多くの観光客がカメラを向ける。観光協会のスタッフに聞くと、これらの建造物が建てられたのは明治の後期から大正にかけて。季節風が非常に強いという地形から、火災や潮風から建造物を守ろうと採用されたが、昭和30年ごろから減少していったという。
平成8年、なまこ壁の街並みの消滅を危惧した町が「なまこ壁伝承事業」を立ち上げた。平成16年には町民や左官職人がボランティア団体を形成し、なまこ壁の修繕や研修会、蔵巡りなどを、自治体と町民が協力し積極的に活動。丹念に整備された景観から地域の文化や伝統を大切に受け継ごうという町民の方々の思いが伝わってきた。
歴史的価値のあるものを後世に受け継ぐことの意義は誰もが理解しているであろうが、実用性や維持費、資産運用の観点からそれらを維持することの難しさは永遠の課題。文化財や伝統工芸に指定し保護することも方法であるが、同時に地域の人々が歴史的背景や価値を知り、協力して維持することで地域の資源が輝く姿を、松崎町で見た。
(次田尚弘/静岡)