復興法人特別税が今年4月にようやく廃止されますが、経済財政諮問会議では対日投資の促進策として「法人税の引き下げ」が早くも論議されたと報じられました。法人税の引き下げに関しては多角的な議論が必要となりますが、その前に取り組むべきことがあります。
企業が投資する際には税だけでなくインフラ、治安、高度人材、法整備なども判断材料となるはずです。実際、外国企業が見た日本のビジネス環境に関する経産省の調査によれば、日本の強みは「市場の大きさ」「社会の安定」「高度人材」「顧客へのアクセス」「インフラ」「パートナーへのアクセス」、弱みは「事業活動コスト」「英語での会話」「市場の成長性」「事業の規制」の順となっています。「税」は「一般人材」「ビジネス習慣」「優遇策」などと並ぶ弱みの6位タイで、決して関心が上位にあるわけではありません。
そして、第一の弱みとされる「事業活動コスト」の最大要因は、官庁の規制やテレビのキー局制などにより、企業が東京に集中してきたことです。しかし、もはやネットの時代であり規制緩和も進み、一部の業種を除き在京の意味合いは薄れています。
さて、その事業活動コストには、人件費、地代家賃、交通費・会議費・接待費などの経費、社員の通勤・住宅などの諸手当が含まれますが、この引き下げは国内企業にとっても切実なことです。
そこで東京と地方を比較してみると、まず人件費では30%程度の差があり、地代家賃でも大きな差があります。また、社員の通勤と住宅も遠距離かつ高額となり、社員はもとより企業の負担も大きくなっています。同時に、インフラ整備や待機児童問題、治安・防災対策など行政コストも巨額なものです。
一方、地方では県庁所在地でさえ、待機児童問題はほとんどありません。当然、保育料の差も大きなものです。さらにコマツの坂根相談役によると、同社の女性社員の出生率は東京本社0・7人、関東北部1・2人、小松市内1・9人とのことです。少子化が喫緊の課題であることを考慮すれば、示唆に富む数字です。
企業の地方移転は、東京における企業と行政のコストを大きく引き下げ、地方に活力を蘇らせるとともに、社員にゆとりある人間らしい生活をもたらし、少子化にも歯止めを掛ける契機になると思います。
また、欧米各国では主要企業が地方に点在しているように、交通・通信が発達した中でグローバル化の視点から見れば、首都・東京に集中する必要はありません。セイコーエプソンの相談役も中央公論12月号で、長野県の諏訪に本社を置いていても、世界を相手に企業活動を行う上で何ら支障はない旨述べています。
以上のようなことから、東京を拠点と考える既成概念を改め、事業活動コストの安価な地方に拠点を置いても支障はなく、企業トップの判断次第で実施可能です。
先の中央公論12月号では、「壊死する地方都市」が特集されました。地方の衰退は時間との闘いであり、東京の繁栄が地方からの人・モノ・金に大きく依存していることを考えれば、地方の衰退は東京、さらには日本の衰退につながります。
そして東京は、今また五輪による一層の集中が予想される一方、首都直下型地震も近未来に想定されているだけに、対日投資促進の視点とあわせ、まず東京のあり方、日本全体のあり方を考える時だと思います。